




首都圏の人々を魅了する
「日本酒王国ふくしま」
酒どころ福島県の日本酒を楽しめる「ふくしまの酒まつり」が10月9、10日、東京都港区のJR新橋駅西口SL広場で開かれた。県内の52の酒蔵が集結、93銘柄の日本酒が提供され、多くの来場者でにぎわった。2025年は新酒の出来栄えを競う全国新酒鑑評会の金賞獲得数で福島県が3年ぶりに日本一を奪還したこともあり、「日本酒王国ふくしま」をアピールする絶好の機会となった。

「ふくしまの酒まつり」
復興のシンボル
福島県産の日本酒は震災2年後の13年から22年まで、9回連続(20年はコロナ禍で金賞は不選出)で全国新酒鑑評会の金賞受賞数で日本一を獲得した。東京電力福島第1原発事故の風評被害に苦しむ県民にとって、県外で高い評価を得た日本酒は復興のシンボル的な存在だ。
県は、日本酒を中心に福島県産品の魅力をアピールしつつ、東日本大震災からの復興を支えてくれた人々への感謝の気持ちを伝えようと、16年に酒まつりを企画。コロナ禍の20、21年を除いて毎年実施し、都心でも愛飲家を中心に人気イベントとして定着してきた。
「奥ゆかしい」味わい

8回目の今年、初日の会場入り口には当日券を求める長蛇の列ができた。全体を囲むように会津、中通り、浜通りと各地方の酒蔵ブースが設けられ、2000円のチケットで数杯の日本酒と「常磐もの」のメヒカリや会津地鶏の卵などを使った7品のおつまみセットが味わえた。
実際に、金賞を受賞した銘柄を何杯か口にすると、いずれも優しい味わいで食材のおいしさを引き出してくれる。一言で言うなら「奥ゆかしい」。それでいて地方によって多彩な味わいを楽しめ、福島の酒の幅広さが実感できた。
酒蔵一堂に圧倒
中央に並んだテーブルには、酒を酌み交わし、県産食材に舌鼓を打つ人々の笑顔があふれた。オープン直後に訪れた25歳の女性会社員2人は福島県須賀川市出身。東京で働いており、「好きな福島のお酒があって、それを含めて故郷を満喫したくて訪れた。福島のお酒は、まろやかなのが何と言っても魅力」と声を弾ませた。
同僚に誘われて参加したという東京都大田区の男性会社員(61)は「飲み口がスッキリしていていい」と福島の酒に魅了された様子。「福島が酒どころだとは知らなかったが、これだけの酒蔵が一堂に集まっていて圧倒された。福島にはおいしいものがいっぱいあるので、原発事故の風評は気にしていない」と満足そうに語った。

杯を重ねる姿が見られた

参加した酒蔵もイベントの盛り上がりに手応えを感じている様子で、今年金賞を受賞した花泉酒造(南会津町)の醸造担当者は「地域と作り手の気持ちにこだわった酒造りに取り組んでいる。それを県外の人たちにも知ってもらうよい機会となった」と話した。
芳醇、淡麗、旨口の3拍子

福島の酒が日本一に輝いているのは、なぜか――。会場に駆けつけていた福島県酒造組合特別顧問で県日本酒アドバイザーの鈴木賢二さん(64)は「福島の酒は、芳醇、淡麗、そして旨口の三拍子そろっているのが特長」と解説する。香りが高く、飲み口が軽快で、コメ本来の持つ甘味を感じることができるのが福島の日本酒だという。
23、24年は金賞受賞数日本一を逃したものの、25年5月に開かれた鑑評会で16銘柄が金賞に選ばれて1位を奪還。県酒造組合が中心となって各酒蔵がその年の米質に合わせた酒造りのポイントを共有しており、鈴木さんは今回、猛暑で硬くなった酒米に対し、仕込み水を減らすなど細心の注意と工夫を重ねた結果、しっかりした風味を出せたことが高評価につながったと分析する。
福島の特産品の顔となっている日本酒。今後も重要な産業として、福島県は県内外に「酒どころふくしま」を積極的にPRしていく。

産業界の新たな挑戦 復興から創生へ
福島県の酒蔵は、江戸期創業が多く残る。しかし、県全体の日本酒の評価が高まったのは21世紀に入ってからだという。
きっかけは、1992年に設置された「福島県清酒アカデミー職業能力開発校」の開校。若手の杜氏(とうじ)の養成に取り組み、毎年「福島流吟醸酒製造マニュアル」を作成して酒蔵に公開してきた。これらの取り組みに関わった鈴木さんは「酒蔵同士も情報交換が盛んで産業としての厚みも増してきた」と話す。
東日本大震災や原発事故では、避難指示やその後の風評被害に苦しむ酒蔵も多かった。太平洋側の浜通り地方の浪江町で1840年頃に創業した鈴木酒造店は津波で建屋も蔵も流失し、原発事故で山形県へ避難。同県内の蔵を譲り受けて酒造りを再開し、震災から10年後の21年にようやく浪江町内でも再び製造を始めることができたという。
震災と原発事故を乗り越えながら、質の高い酒造りで県内外から評価される福島の酒は、日本酒業界だけでなく、福島県の産業界に明かりをともしている。
企業立地数934件

福島県内では避難指示などに伴い、浜通り地方から県外に移らざるを得ない企業もあったとみられるが、その後の企業誘致は着実に進んでいる。
特に、首都圏から新幹線で1時間余り、高速道路で約3時間という交通アクセスの良さや、のびやかな生活環境といった優れた立地環境が徐々に浸透。震災後の産業復興を目的とした企業立地補助金なども進出を強く後押しし、震災が起きた2011年以降、企業立地数(福島県工業開発条例に基づく工場新増設の届け出集計結果)は24年12月末時点で934件に上る。
宇宙やロボット関連を重点に
特に震災の津波や原発事故で大きな被害を受けた浜通り地方では、「福島イノベーション・コースト構想」に基づき、航空宇宙関連やロボット・ドローンなど重点6分野のプロジェクトの具体化とともに、産業集積や教育・人材育成、交流人口の拡大が進められている。
「清酒アカデミー」で力を結集させ、国内トップに成長した日本酒業界のように、福島は新たな挑戦をエンジンに「復興から創生へ」と歩んでいる。
※ふくしまの日本酒は「日本橋ふくしま館MIDETTE」(東京都中央区日本橋室町4-3-16柳屋太洋ビル1階)などで販売しています。
また、福島県オフィシャルサイト「ふくしまの酒」(https://www.fukunosake.com/)では、各酒蔵や販売サイトの情報を掲載しています。